菓游 茜庵
四国徳島城跡をのぞんで佇む、静かな菓子の庵。 上質ながら、遊びごころあるお菓子づくりを大切にしています。 心地よく和と暮らすお手伝いができれば幸いです。
雨がくるねと、花が唄います。
今月は とびきりの歳時菓をご用意いたします。
今は昔 ただ夏を越すことも 容易ではない時代がありました。
先人たちが行ったのは、半年間の間に知らず知らずの間にたまっていった 心身の穢れや厄災を祓い清めて、一心に祈りをささげること。
6月の晦日は、いわば半年間のけじめの時期とされました。
今月の喫茶のお菓子 「夏越」は、この行事と結びついたお菓子。
白胡麻に葛・小豆をたっぷりとつかって
瑞々しく、風味ゆたかに仕上げた一品。
この夏も きびしい暑さとなりそうです。どうぞお元気でと願いをこめて。
毎月 お菓子とのコーディネートをお楽しみいただく室礼、今月は水の気配でまとめました。
幕末の阿波国の僧侶、閑々子(かんかんし)の河童。
なんともいえない 優しい表情のあとに、万歳石の上に咲くと文字が続きます。
閑々子は一風変わった 仙人のような人物としても知られており、いくつか逸話が残っています。
門前には「祈念応ぜず、加持験無し」と、一筆。
つづけて「私の書画を求める者は一瓶の水を汲むべし」と書かれた紙を貼り付け、(揮号の謝礼として)水を換えることを手伝わせたという話。
無欲恬淡で非凡ながら、慈愛に満ちた人物像が透けてくるお軸です。
蛙にみたてた古木の香合。
鮎籠の花入、団扇にも水の気配をまとわせて。
「立礼席(りゅうれいせき)」とは、椅子とテーブルの茶室。
茜庵本店で喫茶をご利用のお客様には、こちらのスペースでお菓子をお楽しみいただきます。
今月は立礼席も、お軸にご注目。
江戸画家 池大雅の妻にして本人も女流画家であった玉蘭(ぎょくらん)。彼女が祇園の町娘であった時代に、和歌の手ほどきをうけた詠草を軸にしたもの。
縦と横に文字が走り、ところどころに丸や加筆がみられます。これは現代でいう、赤ペン先生の痕跡。
先生(冷泉為村)に、ここイイネ、ここ直したら?と加点され、横にはしるのが清書。
無欲恬淡で非凡(そしてちょっと変人)、という点において玉蘭と閑々子にはどうやら通じるところがあるようですが、長くなりますのでまたの機会。
釣舟の花入と 茶碗と蓋置には、蛍。こちらも水辺の気配をまとわせて。
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しつらいとは、和のコーディネート遊びのようなもの。
リラックスしてお菓子を召し上がっていただけるだけで何よりですが、しつらいの遊び心まで覗き見ていただくと、ちょっとお楽しみが増えるかもしれません。