菓游 茜庵
四国徳島城跡をのぞんで佇む、静かな菓子の庵。 上質ながら、遊びごころあるお菓子づくりを大切にしています。 心地よく和と暮らすお手伝いができれば幸いです。
蝉が謳い 夏がはじまります。
朝顔は朝に咲き、昼頃にはしぼんでしまう一日花。
美しい花でありながら、はかなくも一日で枯れてしまう容花(かおばな)は、江戸っ子たちの心をグッと掴んだようで、愛好家による「番付」(品評会ですね)の記録も多数残っています。
さっぱりと、キウイ餡の取り合わせ。
すべらかな口当たりの、葛の生地で仕立てます。
七夕という節句の存在からか、七月は女性の趣が似合う季のようにも思います。今年は床間にご注目。
愛媛の九代藩主松平頼学公の奥方であった「智月院」が、六代藩主 頼謙の娘「圓恭院」の書を見本にかいた 手習の和歌を、笹飾りに見立てた竹の軸にあわせて。
時をこえた二人の姫君の交流の軌跡とみると まずもってロマンチック。
続きまして、書かれた文字(フォント)にも目をむけてみます。二人の文字は 「寛永の三筆」のなかでも「近衛信尹」の書流によるもの。この書流、女子の手習としては結構レア。
当時の一番の流行であった松花堂昭乗フォントではなく、かといって煌びやかな本阿弥光悦フォントも選ばず、伸びやかで自由闊達な信尹の文体を選んだ姫君たち。
近衛信尹という人物ですが、関白や左大臣など歴任した重臣にして、結構なアナーキー。
信長に可愛がられた後は、秀吉による朝鮮出兵の際、自らも朝鮮へ向かおうとして九州にむかったところで天皇の怒りをかい、薩摩に流されるエピソードなど、そんな人います? な御人。
潔く、豪快で、その人柄を彷彿とさせる文字は、主に男子の手習に重宝されたようですが、これを選んだ姫君たちの背景にあるものに、令和の菓子屋は想いを馳せます。(ちなみに圓恭院も、二度嫁いで二度とも離婚されておられます。)
火の気配は極力しずめて、すっきりと涼やかにまとめます。
「立礼席(りゅうれいせき)」とは、椅子とテーブルの茶室。茜庵本店で喫茶をご利用のお客様には、こちらのスペースでお菓子をお楽しみいただきます。
七夕といえば、「棚機つ女」(たなばたつめ)と牛飼い「牽牛」の、年に一度の逢瀬のイメージがありますが
もともとは平安時代の貴族たちの間で、芸事の上達を願い 梶の葉に歌をかいた宮中行事が由来なのだそう。
七夕前夜に里芋の葉にたまった夜露を集めて、墨を摺ったのだというから
平安貴族、心憎いといいますか、有閑といいますか。
令和の世は暑さも殊更ですが、気持ちだけでも ゆったりと。
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しつらいとは、和のコーディネート遊びのようなもの。
リラックスしてお菓子を召し上がっていただけるだけで何よりですが、しつらいの遊び心まで覗き見ていただくと、ちょっとお楽しみが増えるかもしれません。